プロジェクト

プライベート救急ブランド「管轄なき救急隊」で挑戦

プライベート救急ブランド
「管轄なき救急隊」で挑戦

 消防機関等による軽症者搬送の代替リソースとして、クライアント監修のブランド構成により、自宅から病院における搬送市場において、サービス開始以降の向上的な利用成⻑率を実現

 ただちに実質的な救急出動件数を減少させることを共通の目的に、キャプテンアンビュランスと理念を共にする消防機関認定の患者等搬送事業者たちは、軽傷者搬送に関する協業を開始した。その実現の核となるのは、搬送を依頼するクライアントにとって“時には消防救急隊に勝る”高品質な内容と“確固たる信頼を得る”ブランド設計。無料で有能な消防救急隊が存在する市場において、有料でプライベートが提供される“個のニーズ”に着目し、税金で運行する公では再現できないサービスを設計した。また、行政が運営する救急安心センター事業「♯7119」等で救急車適正利用の啓発が進むも、クライアント自ら消防救急隊以外の搬送リソースを検索することが困難であったため、「管轄なき救急隊」専用のコールセンターを設置し、ワンストップ予約ができる直接通報のルートを確立した。さらに地域と接触の濃い訪問介護・看護事業者に対しても連携を求め、搬送困難事例や患者様の病院搬送を検討する際に「管轄なき救急隊」を選択肢として提案している。結果、月あたりの自宅から病院への搬送利用数は4月サービス開始当初と比較し3.4倍と飛躍的に向上させた。膠着化していた搬送市場において、クライアントに新たな価値を提供することで、ブランドを確立してきている。

消防救急隊とは、異なるブランド設計

 近年の高齢化等により、消防救急隊の出動件数は年々増加傾向で、かつ搬送総数のうち軽症者が占める割合が過半数を占めることが課題となっている。総務省消防庁では、この軽症者を搬送する役割を各消防機関が認定する患者等搬送事業者にタスクシフトしたい思惑であるが、たちまち覚知された119番事案については医学的・法的に振り分けは難しく、実質的にすべて消防救急隊が担う構図となっている。
 「クライアントがさらに追求したい潜在的なニーズは、消防救急隊サービスからトレードオフさせた先にある」という視点を軸に、消防救急隊がもつ運用と差別化を図るブランドを設計。その設計したポイントの価値を実現するサービス開発にも着手。ここに消防機関や患者等搬送事業社内で⻑年培われた卓越した医療搬送技術が生かされ、クライアントが積極的に選択する搬送リソースが完成した。

今後の戦略

 更なる救急出動件数の減少を達成するためには、消防管制室との連携が必要であるが、消防機関にとって電話を介したヒアリング情報を根拠に軽症者の救急搬送を拒否する通称「コールトリアージ」の実施は困難となっている。そこで、事業協定を締結している首⻑に対して、救急隊の運用基準を承認するメディカルコントロール協議会に「患者等搬送事業者連携プロトコール」を提出することを提案した。プロトコールができることで、管制室による迂回通報が可能になる体制をつくることが狙いだ。
 また、令和7年度より、緊急走行等消防救急隊スペックを再現する「プライベート救急隊サービス」を順次国内展開する。地域、大企業等の支援を受けながら、医療機関を始めとしたパートナー、CA の仲間と共に、日本の救急導線を変えていく。

「社会とつながる物語を届ける力」を開放

「社会とつながる物語を届ける力」を開放

 創業以来、BtoB・BtoGの協定や共創の現場で培ってきたのは、目の前の課題を“社会の共感”へと転換するストーリーデザインの力。そしてサービスと人を結ぶマーケティングの技術。これらのノウハウは医療・福祉にとどまらず、地域ブランドの再構築、企業のESG・CSR戦略、自治体の広報活動といった社会性と発信力の両立を求めるあらゆる領域に活用可能な「汎用性ある武器」となっている。

なぜ、企業だけでなく自治体にも「マーケティング」や「ブランディング」が必要なのか。 かつて“良い商品”や“良い制度”は、それだけで人に届いた。しかし今、情報が飽和し、価値観が細分化された社会においては、単なる機能以上の「意味づけ」がなければ、選ばれもしないし、語られもしない。
キャプテンアンビュランスのマーケティングは、ターゲットを深く理解し、最適な導線を設計すること。 ブランディングは、無機質な制度や商品に“らしさ”や“共感”を与えること。自治体の施策も、企業の製品も、「自分ごと化」されてはじめて行動につながる。特に公共性の高い組織において、ブランドとは単なる表象ではなく、信頼の積み重ねによって形成される“社会資本”である。“あの自治体なら信頼できる”、“あの企業なら応援したい”──そう思ってもらうための文脈設計こそが、ブランディングの本質だ。

社会的信頼の構築=無形資産の最大化

 その実践例として、私たちは、地方自治体と協働し、地域食材を核としたブランド再構築プロジェクトを実施した。対象となったのは、全国有数の生産量を誇る果物。質は圧倒的であるにもかかわらず、都市部での認知が極端に低いという課題を抱えていた。私たちは、単に「おいしさ」を伝えるのではなく、「この土地で果物を育てること」の物語に価値を見出した。昼夜の寒暖差、火山灰土壌、職人的な手作業。それらを“風景”として描き、【なんて、贅沢。】というコンセプトに凝縮。交通広告・冊子・SNS・レシピカードまで一貫したトーンで展開した結果、6ヶ月で都市部のブランド認知度は32ポイント上昇。流通・観光・ギフト需要にわたる多面的な拡張へとつながった。また、地域に根差した老舗食品ブランドのリブランディングも手がけた。中高年層には“いつもの安心”として根づいていた商品が、若年層には“地味で古いもの”と捉えられていた現状に対し、私たちは、生活者の日常に宿る「気づかれにくい優しさ」。たとえば、のり弁のちくわ天、パックの片隅に添えられた「紅しょうが」にブランドの根幹を見出した。【そうそう、この味、このおいしさ。】というコアコピーを軸に、ブランドの語り口を“安心の記憶”として再構成。アプリUI、店頭販促、SNSキャンペーンまで世界観を統一し展開。結果、女性20〜30代の購入比率は41%増加。SNS上では「懐かしい」「実家を思い出した」といった投稿が溢れ、ポジティブな言及数は2.8倍に上昇した。

今後の戦略

 キャプテンアンビュランスでは、社会的な価値を直感的に届ける「ブランド設計」の重要性が、あらゆる分野で高まっていると考えている。マーケティングとブランディン事業については、今後も医療・福祉・災害に限らず、地域、行政、企業、スポーツなど、公共性と社会性を併せ持つ領域へと本格展開していく。
 「現場に根ざしたリアリティ」と「社会潮流を捉えたクリエイティビティ」。 この2つの交差点に立つ私たちは、組織の本質にふさわしい“語り口”を設計し、ブランドを“戦略資産”として活かす社会の実現を目指していく。